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> No.265[元記事へ]
三橋秀也さんへのお返事です。
三橋> しかし、iskola(学校)という単語は、元々ケルト系の単語だったと思います。
どこからそんな発想が出てくるのでしょうか?
三橋> イギリス・ウェールズ地方で話されているウェールズ語(ケルト系言語)で、
三橋> schoolを「イスゴル」と言うそうですので、 おそらく、iskolaはケルト語だと
三橋> 思いますが如何でしょうか?
なぜ、ハンガリー語の iskola [ˈiʃkolɒ] がウェールズ語の ysgol [ʉskol] の借用語という発想が出てくるのでしょうか? 東方から欧州にやって来て、中央ヨーロッパに定住したハンガリー人のハンガリー語がなぜ海を越えたブリテン島の言語の影響を受けるのでしょう?
ハンガリー語の iskola は直接的には明らかにラテン語の schola [ˈskola] からの借用語であることは“常識”です。(ラテン語の schola はギリシア語の σχολή [skolē])からの借用語です。)ウラル系の言語は子音連続を嫌うので、ハンガリー語では skola の前に子音連続を解消する母音を挿入して iskola としたものです。(フィンランド語は逆に子音連続が発生する場合には先頭の子音を捨てて、短くして借用する傾向があります。やはりラテン語の schola をフィンランド語では先頭の s を捨てて koulu という形で借用しています。)
ちなみにハンガリー語では母音を先頭に追加して子音連続を解消するわけですから、古いハンガリー語には iskola の他に ëskola や oskola, askola, ëskula, uskola, uskula, askala 等の異形も存在していました。skola という形すら残っています。
さて、ウェールズ語の ysgol ですが、これが英語の skool- (school) からの借用語であることは簡単に調べられます。英語の skool- がウェールズ語に入って、*sgôl > *ysgôl > ysgol となったことはウェールズ語の辞書に掲載されています。
1586e Y Gwe-eiriadur. An Online Dictionary of Welsh. Section Y-
ちなみに、英語の school も当然ラテン語の schola が語源であることは確定しています。つまり、ハンガリー語の iskola も、ウェールズ語の ysgol も、フィンランド語の koulu も、英語の school も、全てラテン語からの借用語です。ラテン語がハンガリー語に入って iskola になり、ウェールズ語では ysgol となったものです。結果として似ているからと言って、ハンガリー語がウェールズ語から単語を借用したと言うことにはなりません。ドイツ語の Schule が英語の school に似ているからと言って、ドイツ語の Schule が英語の school の借用語だと言うことにはならないのと同じことです。ドイツ語の Schule も当然、ラテン語の schola からの借用語です。ヨーロッパの諸言語は、印欧語族の言語であれ、ウラル語族の言語であれ、系統不詳のバスク語 (eskola) であれ、同じラテン語から借用しているのですから、借用した結果の語形が多かれ少なかれ似ているのは当然なわけです。(だいたい語形が似ているからと言うのであれば、バスク語の eskola 等はそのまんまハンガリー語ですよね?)
語源研究では、どの言語であれ、未だに語源が解明されていない単語というものは多々あります。しかし、多くの単語に関しては(特に主要な印欧語族の言語やウラル語族の言語の場合ですが)すでに語源は解明されています。語源が掲載されている辞書に語源が掲載されている場合は、それはすでに評価が定まったほぼ 100 % 間違いのない語源の場合のみです。(わからない場合や疑義がある場合には「語源不詳」ないし「<?」のように記述されます。)
ハンガリー語の iskola の語源はハンガリー語の語源辞典には記述がありますし、ウェールズ語の ysgol の語源もウェールズ語の辞書に記述があります。語源研究の場合は、特に語形が酷似していたら“怪しい”(=同系ではない)と考えるのが基本です。英語の kennel「犬小屋」が「犬寝る」ではないことや、ドイツ語の Name「名前」が日本語とは全く無関係であることや、ハンガリー語の ház が英語の house とは全く無関係であることは周知の事実です。語呂合わせで同系だと主張することは簡単ですが、そういう態度は「民間語源」と呼ばれて、学問には馴染まない態度です。少なくとも、事前に該当する言語の基本的な辞書で語源がどう説明されているかはチェックすべきです。すでにわかっていること、わかりきっていることを再発見(しかも間違った答え)をする必要は全くありません。
http://www.hum.u-tokai.ac.jp/~sitosi/
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