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Re: e: の発音と表記

 投稿者:しい坊  投稿日:2006年 7月 1日(土)13時58分25秒
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   >Dzsun さん

 ハンガリー語の e には発音が2通りあります。正書法上は e としか書きませんが、舌が上がって i に近寄った位置で発音される「狭いe」と、舌が下がって a に近寄った位置で発音される「広いe」の2つです。「狭いe」は、あえて区別するときにはウムラウトを付けて ë と表記します。発音記号では「狭いe」はだいたい [e] です。「広いe」は [ɛ]〜[æ] と発音されます。この2つの e の発音の差は相対的なものです。u < o < a と舌が下がって(広がって)行くのと同様に i < ë < e と舌が下がって(広がって)行きます。この違いは英語などにもあります。

 ハンガリー語の標準語では「狭いe」を区別するものと区別しないものの2種類が存在します(おかしいですね)。理由はハンガリー語の大部分では区別しているのですが、首都のブダペストでは区別しない(区別できない)ために、ハンガリー語の正書法自体が区別しないようになってしまっているからです。ですから、通常のハンガリー語辞典には2つの e の区別は掲載されていません。しかし、ハンガリー語の(一般向けではなく、研究者向けの)文法書や、ハンガリー語の大辞典等ではちゃんと「狭いe」が区別されて、表記されています。

 一般のハンガリー語の書籍では「狭いe」は表記されません。発音上区別されるだけです(繰り返しますが、ブダペストの人は区別できません)。一部のハンガリー人の言語学者は正書法でも「狭いe」を表記すべきだと主張しています。(私もその1人です。)それは、ハンガリー語の2つの e は意味を区別させるからです。(「狭いe」と「広いe」はそれぞれ別の“音素”だと言います。)音楽家のコダーイ・ゾルターンも「狭いe」表記主義者でした。ですから、彼の合唱曲の楽譜にはきちんと「狭いe」が表記されているのです。

 表記されない場合の見分け方は、100 % の方法はありませんが、一部の「狭いe」は比較的簡単に見分けることができます。ハンガリー語には母音調和という現象があります。母音調和とは、ある単語には高母音群の母音か低母音群の母音しか登場しないと言う現象です。日本では(「狭いe」を考慮しないので)しばしば以下のように説明されています。

高母音: ü, ö
低母音: u, o, a
中立母音: i, e

 “中立母音”とは、どちらのグループに登場することができる母音だという意味です。しかし、このような分類は不正確だと私は考えています。実際は、

高母音: i, ë, e, ü, ö
低母音: i, ë, u, o, a

の2種類のグループしかありません。中立母音というのは存在しません。「しかし、i と ë は両方に存在しているじゃないか?」という疑問も湧くと思います。確かにそうなのです。しかし、低母音グループの i, ë は実は、歴史的には [i] と [e] ではなくて [ɯ] と [ɤ] のように発音されていたと考えられます。「広いe」は高母音のグループにしか登場しません。従って、低母音のグループの u, o, a が登場する単語の場合に登場する e は、常に「狭いe」だと言うことになります。

 それ以外の場合は暗記するしかありません。もしも「狭いe」と「広いe」の区別を学ぼうとすれば、自分の聴覚を磨き、「狭いe」を区別できるハンガリー人の発音の差を聴き分けられるようにして、ハンガリー語の大辞典 (A magyar nyelv értelmező szótára) で、ありとあらゆる単語の「狭いe」を確認し、ハンガリー語の一般向けではない、専門家向けの文法書を読んで学習すること以外に方法はありません。ハンガリー語を教えいている授業で、最初から「狭いe」を教えているのは、私の知っている限りでは、(ハンガリーも含めて)世界中で私の授業以外にはありません (^^;)。

http://www.hum.u-tokai.ac.jp/~sitosi/

 
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